1990年12月01日

エネルギー価格と日本経済の成長力:湾岸危機の経済的影響

竹中 平蔵

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■見出し

1.はじめに
2.短期的インパクト:「購買力」の移転
3.長期的インパクト:生産関数に基づく潜在成長力の試算
4.結び

■はじめに

8月2日、イラク軍による突然のクェート侵略は、世界中の人々に国際政治問題の複雑さ、および一国にとっての安全保障の重要性を改めて象徴づけた。湾岸情勢が今後いかに推移するか大いに注目されるが、いずれにせよ経済的な観点からする限り、かなりの長期に亘ってエネルギー価格が強含みに推移して行くことは避けられないだろう。

それでは具体的に、経済活動を幅広く支えるエネルギーの価格が上昇した場合、日本経済にどのようなインパクトが生じるのだろうか。経済の需要面・供給面、実物面・金融面のすべてにわたる効果を織り込んで、エネルギー価格上昇の全体的なインパクトを把握するととは、技術的に極めて困難である。そこで、次のような二つの方法で、エネルギー価格上昇による経済全般(GNP成長)へのインパクトを把握することが考えられる。

第一は、原油価格の上昇によって一体どの位の「購買力」が国内から海外に移転し、その結果(乗数効果を通じて)日本の総需要がどの程度低下するかを測ることである。いわば、経済の需要サイドを通じた短期的なインパクトの計測である。これに対し第二の方法は、エネルギー価格上昇による長期的なインパクトを、その供給サイドへの影響を通じて把握することである。そもそも、長期に亘って総需要が総供給を上回って成長することはありえないから、供給側の動向こそが長期の経済成長を規定する重要な要因となる。

以下では、まず近年における日本のエネルギー需要と経済活動の推移を概観したうえで、海外への「購買力」移転を通したデフレ的インパクトがどれ程か、把握する。次に、エネルギー要因を含む簡便な生産関数の推計とそのシミュレーションに基づき、長期的な成長径路へのインパクトを議論する。

既に公表されている、エネルギー価格上昇のインパクトに関するいくつかの試算は、いずれも需要サイドに着目し、短期の影響をみたものである。それらの多くは、当面のGNP成長への影響が軽微であると結論している。これに対し本稿では、経済の国際相互依存の高まりを考慮し世界モデルによるシミュレーションを行なうと、エネルギー価格上昇による世界的なデフレ効果を通して、日本の総需要動向にもやや大きなインパクトが生じる可能性があること、また長期的には、他の生産要素(労働)投入の動向とも相俟って、経済成長に対し比較的大きなマイナス効果の生じる懸念があることを明らかにする。


本稿における関数推定とシミュレーション分析にあたっては、米国ランド研究所大学院Ku Shin、およひ、慶応大学環境情報学部豊国潤、両氏に協力をいただいた。

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