1990年03月01日

日米安保再考

  細見 卓

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長い間続いた米ソ二超大国による恐怖のバランス時代が終わろうとしており、欧州においてはNATO、ワルシャワ条約機構を廃止とはいかないまでも、根本的に改めようとの動きが出てきている。特に、ワルシャワ条約機構においてはメンバー国の忠誠が疑われるような状態になっており、欧州の屋根の下に大西洋からウラルまでを大同団結させようとの企てもあって、ソ連を敵とする軍事体制が過去の遺物として葬り去られると言う人が出てきている。しかし、最近発表された米国の軍事白書的な資料によると、ソ連の軍事的脅威は依然として存在し、ペレストロイカへの支援と安全保障は別であるとの考えが示されており、西側防衛体制の継続を説いている。

そのような観点からみれば、日米安保体制に変わりはないのであるが、米国の来年度予算教書における韓国、フィリピンにおける基地縮小、兵力削減、日本の防衛費負担増要求等の事象をみて、対ソ連への共同防衛という日米安保の第一義的目的の意義の低下にもかかわらず防衛費負担増加が続くということで、この際日米安保体制の考え直しをせよとの意見が国内で出てきている。しかしながら、ソ連の脅威が減り、北方領土問題を抱える日ソ関係の好転のきざしは望ましいことではあるが、そ乙から短絡的に日米安保条約を不要あるいは過去の物と考えるのは大きな間違いであろう。

アジアには、NATO、ワルシャワ条約機構というような相互防衛機構がなく、米国が各国と個別に条約を結びつつ、保護者、仲裁者の役割を果たしてきたわけであるが、もしも米国がアジアから後退をした場合に、特にカンボジア問題、南北朝鮮問題、インドパキスタン紛争、南太平洋シーレーンの防衛等の様々な問題を抱えるアジアの安全保障面の空隙を誰が埋めるのであろうか。日本が軍備を増強しその役割を果たすという選択もあろうが、第二次大戦の記憶もあって近隣諸国の不安、敵愾心を呼び、招かざる隣人として孤立化の道を辿るのではなかろうか。従来、日本がアジアにおいてそれほどの反発もなく受け入れられてきたのは、日米安保という枠組みの中で日本の後ろには米国がついているということが大きな支えであったのであり、アジアにおける日本のプレゼンスの維持、向上を図るためには、今後とも日米安保の枠組みを継続し、米国と一体的な存在として行動することが必要なのではなかろうか。元々、日米安保条約は軍事面だけでなく政治経済面の協力をうたっているが、今後の軍縮の流れの中では、後者の面においての日米の政策協調を強めることが重要となるであろう。

最近、米国のアジア政策において日本の経済力拡大を恐れ、従来は対ソ連への牽制として使っていたチャイナカードを、ソ連の脅威が減ったこともあり、対日本への抑えのカードとして使おうと考えている節がみられる。元来親中国の米国だけに、十分予想されることだが、そのような札を使わせないためにも日米安保体制を確固たるものにしておかねばならない。

また、米国が東欧、ソ連等の欧州問題に忙殺されてアジア政策の手を抜くことを抑えるため、加えて米国が東欧、ソ連問題に対処する場合、問題の解決が長期間を要しかつ困難さも高いゆえに、途中で失望し所謂モンロー主義に陥る可能性が多分にあるのを防ぐ意味からも日米安保体制を強い形で維持し、米国をアジアに繋ぎ止める楔として使うことも考えておく必要があろう。

以上のように、現在の新しい世界秩序の模索期において日米安保も新しい意味を持ちつつあり、その役割は従来以上に大きいと思われる。日米安保体制を基軸として日米関係を更に強化し、政治経済政策での協調性を深めることが日本の選ぶべき道ではなかろうか。このことに関連して昔のことで思い出されるのは、日露戦争で日本は勝ったが、その際英国が日英同盟に基づき、バルチック艦隊の英領寄港を拒否したことが大きな勝因であったのだが、日本はそのことを忘れて日英同盟を破棄し孤立化し第二次大戦へ突き進んだことである。二度と同じ轍を踏まないように、日米の同盟関係の継続と強化に努めるべき時ではなかろうか。

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