1990年01月01日

1990年代に臨む

細見 卓

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我々日本人は、比較的歴史的意識や物の見方というものに疎遠であるが、いよいよ1990年代、言わば20世紀最後の10年、言葉を換えれば世紀末ともいえる10年の始まりにあたって、世界が大体4、50年の周期でどんなに大きな変化を起こしていたかを振り返ることも意義があろうと思う。

1800年代の初めから吹き荒れていたフランス革命後の戦乱が収まったのが、1810年代でありウィーン体制が始まった。それから約50年経った1860年頃には、米国で南北戦争が起こり、また新たに世界の強国として独、伊、日本の登場があり、この三国の勢力拡大と失敗の歴史が、その後約4、50年の周期で繰り返された。1910年代欧州制覇の野望を持った独の第一次大戦の敗戦により、ベルサイユ体制ができたが、その体制も崩壊し再び世界を覆う第二次大戦となり、1945年にヤルタ体制が確立した。しかし、そのヤルタ体制も昨年12月のマルタ島沖における米ソ首脳会談にみられるごとく、崩れつつあり新しい秩序の台頭が正に始まろうとしている。言葉を換えて言えば、戦後世界を支配した二つの超軍事大国時代は終ろうとしており、東西を分断した鉄のカーテンは、ベルリンの壁にみられるごとく消滅しつつある。このことは抑圧と貧困に悩む東欧の解放であり、自由と民主主義の勝手であるとみえるが、所謂欧州の家の下に安定的な国際関係を築けるかどうかは、旧秩序破壊に伴う混乱が激しいものであり根本的なものであるため、どんな事態が偶発的に起こるか予測困難と言わざるを得ない。

西欧の統合による拡大ECから、東西欧州の融合、新しい広域の政治経済圏の誕生に呼吸を合わせるがどとく北米においても既に米国とカナダの共同市場ができ、更にはメキシコも含む広域経済圏の樹立も予想されている。これに対して、APEC等の動きはあるがアジア地域がこれらの地域に比してそれなりのまとまりをみせて、従来の、また従来以上の経済成長を続けられるかどうか、その際の日米の果たすべき役割lはどんな形か等については、今なお明確な展望を示すことができないのが現状のようだ。

いずれにしても、楽観的にみれば超大国間の軍備競争の停止、経済の時代を迎えて経済建設の活発化が、事態が大きな混乱とか国際紛争を呼ばない限り、予測されるのであって1990年代から21世紀にかけては世界経済が更に飛躍の緒についたことを期待してもよいのではないかとみえる。

一見このようにバラ色にみえる1990年代ではあるが、幾つかの不確定な要素が現存しているのも事実である。若干の例を挙げると、ソ連ではゴルバチョフあるいはペレストロイカ路線が生き残っていけるのか、あるいは東欧諸国の再編成がスムーズに実現できるのか、西側をみれば米国の経済再建が本当にうまくいってソフトランディングするのか、戦後世界を支えてきた米国の軍事的コミットメントの縮小が色々な摩擦や予測できない紛争を引き起こすことなく円滑に進捗するのか、近くのアジア太平洋地域をとってみれば中国の経済建設が再び期待できる状態になるのか、カンボジアの平和統一と経済発展は期待できるのか、また南北朝鮮の対立はどうなるのか、更により基本的には、アジア地域の安定を保つ安全保障の枠組みをいかなる形で実現できるのか、その時の米国、ソ連、中国、日本の役割はどうなるのか等様々の問題が浮かび上がってくる。

このようにみてくると、1990年代を希望に満ちた将来への端緒とすることができるかどうかは、新しいヘゲモニー構造を政治経済的に保障し安定させる体制を世界的に築けるかどうかであり、このことは大きく世界の各国の取組、努力如何にかかっていることは否めない事実であろう。我々は、希望は満ちているが、危険もいっぱいの時代の入口を入ろうとしているのではなかろうか。

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