1989年09月01日

日本のこれからの政治について

細見 卓

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参議院選挙の結果は予想を上回る与野党逆転状態を現出したが、これをどう評価するかつまり単なるムード的、一過的な現象であるのか、あるいは新しい時代の政治情勢を象徴する基本的変化の表れであるのかについては、今の段階では明確な判断は難しいと思われる。しかしながら、投票者の意思表示は、仮にムード的なものであり与党自民党の対応のまずさに大きく起因したものであったとしても、やはりその裏には、従来の政治の在り方に対する大きな転換点を示したものとみるほうがより妥当なように思える。

今日までの日本の政治及び経済は、戦後の復興の時期から一貫して先進国の経済力に追いつくこと、対外的経済競争力を強化することに重点が置かれてきて、その経済活動を支える担当者、すなわち一般の生活者の意向に対しては殆ど応える乙とがなかったということに対して、生活者の反発が出たという点で従来の政治にはなかった側面が出てきたとみられる。

もう少し詳しくみてみよう。日本経済の成功によって、円高、物価安定、景気好況という形で、生産者、事業者、企業という階層は非常に潤ったのに比べて、経済活動の真の担い手として自認する生産従事者や彼らが日常生活で経済に参加する消費者という階層においては、著しい経済の成功に殆ど均露していないとかあるいは阻害されているという意識が出始めていた。その時に、あたかも消費税というような消費者を直撃する新しい税が消費者に充分な説明のないままに導入されたことが、消費者、あるいは生活者の阻害感を一段と強いものにしたのであろう。このことは、単にムードというにはかなり基本的な問題をはらんでいるのではなかろうか。つまり、日本の政治や経済をリードしてきた考え方である生産性、効率、利潤といった生産者本位の物の考え方が、生活者の立場からみた時には必ずしも安定性、公平性を保障するものではなく、更には低廉な物価水準という言わば生活者の中心的な利益を図る政策が余りにも無視されてきたことに対する生活者、消費者としての不満が背景にあって、政治的な大きなうねりが出てきたのではなかろうか。換言すれば、生産者と消費者、都市と農村、土地所有者と非所有者、株式その他資産所有者と非所有者の利害の対立を円滑に調整する政治機構というものが、今まで存在してこなかったことに対する大きな憤りと新しい方向変換の芽がふいてきたということであろう。

もしそうだとすれば、今回の動きは一回の参議院選挙、一回の総選挙では終わらず、日本の政治構造の大きな変革の予兆となろう。このように国内の利害調整を政治的に調整する力が弱まるとすると、今後の国際社会で大きな役割と微妙な舵とりが望まれる日本にとっては厳しい事態も予想されよう。日本としての利益調整方式の確立、対外的に明確な意思の表示ができるような政治を目指した政治改革が今こそ必要ではないかと考える。

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