1989年08月01日

米国金融市場調節とマネーサプライ

石川 達哉

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■見出し

・はじめに
・中間目標と操作目標
・フェデラルファンド金利決定のメカニズム
・マネーサプライと貨幣数量説
・貨幣乗数とマネーサプライのコントローラビリティ
・推計結果とそのインプリケーション
・結びにかえて

■はじめに

'79年10月、FRBはボルカー連銀議長のもと、マネーサプライ重視型の金融政策に転じた。過剰流動性によってインフレを助長することがないように量的金融指標を重視する立場である。貨幣市場は名目金利によって影響を受ける一方、財市場は実質金利の影響を受げる。インフレ期待の変化が起きている場合には財市場での影響の方が大きいと言える。従って、インフレによって財市場が不安定化しているときは、金利よりマネーサプライの安定を政策目標に選択した方が国民所得の安定に寄与するものと考えられる。各国の中央銀行がマネーサプライ重視の金融政策を採用するというのは'70年代後半からの大きな潮流である。このような政策転換はインフレ抑制に効果を発揮したと考えられている。

同時に、この時期から激しい金融革新が始まっている。新しい金融商品の開発は各種金利の自由化や利便性の向上という形で進行した。その過程で、自由金利商品や貯蓄性預金にも決済性が付与された。一方では、流通通貨にきわめて近い、決済用の預金でも有利子化が進み、預金相互や他の金融商品との間で資金のシフトが頻繁に起こるようになった。こうした金融革新は漸進的かつ継続的に行われた為に、通貨当局の管理にもかかわらず通貨残高は激しく変動した。通貨当局の立場からすれば、通貨需要が不安定に変動したために通貨コントロールが困難になったと考えられる。更に、近年はマネーサプライと実体経済の関係も不明瞭になってきた。一部の中央銀行ではマネーサプライの管理目標値の設定を放棄している。

しかし、このことは必ずしも量的金融指標の軽視を意味しない。FRBはインフレのシグナルとならないかマネーサプライの伸びにも注意を払いつつ、金利の乱高下を鎮めるような中和的金融市場調節を行っている。金融政策の最終目標、インフレなき持続的経済成長に向かって効果的な政策運営を模索しつつ、金融市場の安定性確保に努めてきたと言えよう。

米国では最近、マネーサプライと物価が長期的に安定した関係を有するという前提で作成したP―スター指標を金融政策運営に導入するかどうかが関係者の関心を呼んでいる。このことはマネーサプライが政策的な金融指標として、依然、重要視されている証左と言えよう。

本稿の目的は'80年代の米国金融政策の変遷をマネーサプライの変動と関連付けつつ総括するとともに、金融市場調節のメカニズムを極力単純なモデルで記述することによりその政策的インプリケーションを考察しようとするものである。

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