1989年07月01日

「サステナビリティ」問題の再検討 -アメリカ経済をめぐる不確定要因-

竹中 平蔵

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■見出し

1.はじめに
2.サステナビリティ問題の推移
3.サステナビリティ問題をめぐる新しい疑問
4.アメリカの対外債務の将来見通し

■はじめに

ブッシュ政権が発足して、早くも半年が過ぎようとしている。この間、アメリカ経済に関する話題は、スーパー301条をめぐる一連の動き、即ち貿易面におけるアメリカの対応策がどうなるかという点に集中し、同国のマク口経済をめぐる議論は小休止の状態にあった。事実、アメリカの経済成長率は依然高く、一部にインフレ懸念を表明する声がある点を除けは同国のマクロ経済は、少なくとも表面上は順調な推移を示していると言える。

しかし、「暗黒の月曜日」によってアメリカが抱える対外収支不均衡問題が声高に論じられ、同国のマクロ経済政策運営と経済のファンダメンタルズが世界的な批判にさらされたのは、わずか2年足らず前のことである。アメリカ経済をめぐる問題は、はたしてこの2年間に真に解決の方向に向かってきたと考えてよいのだろうか。アメリカのエコノミスト達との議論を通して、確かに彼らの多くがアメリカ経済への自信を回復していることを強く感じるが、そうした自信はいったいどのような要因によって裏付けられたものなのだろうか。

本稿では、アメリカの対外収支不均衡問題を、プラザ合意時の原点に立ち返り、その後何が変化し、何が課題として残されたままなのか、検討したい。具体的に、アメリカ経済の根底にあるのは、「対外収支赤字のサステナビリティ(持続可能性)」問題であると筆者は考える。以下では、まずサステナビリティ問題を分析する基本的枠組みを、Krugman(1985、87)に沿って示し、これに基づいて近年のアメリカの推移をふり返る。次に、サステナビリティ問題を評価する基本的視点のなかで近年議論が活発化している二つの要因、即ち「貿易統計の歪み」「公的年金財政の黒字化」を取り出し、それが将来の債務・GNP比率予想にどの程度のインパクトをもたらすか検討する。結論として、近年の楽観論は、もっぱらサステナビリティ問題を評する主観的な判断基準の緩和によるところが大きく、客観的な経済問題の改善とは言い難いものであることを指摘したい。

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