1989年05月01日

累積債務問題の新展開

  細見 卓

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米国新政権が所謂累積債務問題の解決について、新しい考え方を決定するであろうということで、累積債務問題は急にクローズアップされてきている。

累積債務国は大きく三つのグループに分かれる。一つはアフリカ諸国のように慈善的援助の名目でしか資金の出しようがない、言わば開発に失敗したと思われる国々、また一つは、多くのアジア諸国にみられるように、自力で債務返済しながら順調に経済建設を進めている国々、実は日本がその最も成功した事例である、最後はその二つのグノレープの間にあって、経済開発のために大量の資金を借り入れたが、所期の成果を挙げられず債務の弁済に喘ぐ国々である。

今、米国が方針を変えようとしているのは、この第三の国々に対する累積債務問題である。現在の累積債務額は一兆二千億ドルに達し、日本の銀行のシェアはそのうちの約二割と言われている。この累積債務負担の大きさを示す尺度として、よく言われるのは輸出額の何割が債務返済にあてられているかを表す数値で、ラ米諸国においては4割から6割にもなっている。このことは、同地域においては、産業の成長のために必要な機械、資材等を購入する資金にも事欠き、おしなべて経済は縮小均衡プロセスを辿り、実質GNPが年々減少し国民の生活は貧窮度を増していることを表している。そのことを象徴している実例が、最近ベネズエラで起こった民衆の暴動であろう。

このような経済の縮小乃至停滞は、単に世界経済全体の発展にとってマイナスに響くだけでなく、これらの累積債務を貸出ししている世界の銀行、主として米銀にとっては、経営基盤を脅かされるほどの問題となっている。パンクオブアメリカの一時の惨状は、この例として周知の事実であろう。このように、発展途上国に経済発展のための資金を供給しなければ、世界経済の落伍者になるという問題が一方にあり、しかしそのために、銀行の債権を切り捨てるならば、世界の信用機構に大きな混乱が起こることになる。つまり、一方を立てれば一方が立たないということであり、解決するには日本でよく言う、国際機関を含めて、三方一両損が唯一の方法であり、いつその提案がなされるかが待たれていたわけである。今回の米国の新方針は、債務のある程度の割引きと併せて債務者の今後の元利返済の約束、更には、言わば仲裁者としてのIMF、世銀、開発銀行(これらの資金はメンバー国の拠出である)の債務返済猶予、新規資金供与等の三者による三方一両損的な解決に向けての動きであり、大きな成果が期待される。

しかし、これで問題が急転直下に片づくというわけではない。銀行の債務の棒引きは、発展途上国が切実に必要としている新規資金が、今後は大きく期待できなくなるととを予想させ、そうなると必要資金は上記の国際機関が直接、間接に供給することになることは避けがたいであろう。となると、これらの国際機関を支えている国々の負担、拠出が増えることとなり、その場合には議会の説得を含めてかなり困難があると予想され、関係国の熱意と努力に大きく依存することとなるであろう。

更に、アジア諸国が債務の蟻地獄を抜け出たにもかかわらず、ラ米諸国は以前として苦境にあるのは、社会的、経済的、政治的な欠陥を抱えているためであり、その点の根本的改善を早急に図る必要があろう。極端な貧富の格差、政治と利権の癒着、富裕階級による政治権力を使っての既得権の温存、更には之しい外貨の海外逃避等の経済的疲弊をもたらす状況は、その当事国自身が直さねばならないことであろう。ラ米諸国に多くみられるように、軍政から民主主義への転換期にあって、人気取り政策をしがちで強い規制を嫌う未熟な民主主義下において、上記のような欠陥を正すことは、例えば資金の海外逃避をとってみてもわかるように、非常に難しく楽観を許さないと思われる。

米国の方針変更は好ましい第一歩であるが、最も大事なことは自分で自分を建て直すことが最優先であり、それが無いとするならば、資金流入があったとしても真の立ち直りにつながらないことは銘記すべきことであろう。

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