1989年03月01日

平成元年度予算について

細見 卓

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異常な政治環境の下で、充分な事前の論議もないままに編成された平成元年度予算であるが、そのような成立過程を考慮すれば、まあまあの出来栄えの予算と言えるであろう。

好況に支えられた税の増収については、それが徒に歳出増に回されずに国債の減額と財務体質の改善の面に使用されたことは、それなりの成果と言えよう。所謂ふるさと創生のための各市町村への一億円交付については、ばらまきとの批判も多いが、現在の官僚支配のがんじがらめの予算作りの中で、見落とされている分野に活用する資金を作るにはこのような形を取らざるを得なかったと思われる。また、この一億円交付が既得権益化するとは考えられないので、財政の健全化には反せず、むしろ、その成否は今後の運用にかかっていると思われる。

しかしながら、仔細に予算の内容を検討すると、まだまだ問題が残されていると思われる。高度成長と経済大国化、それに伴う国際的役割、責任の増大を残して昭和は終わりを告げ、国内的には高齢化社会の到来、内需主導の安定経済成長、国民生活の質的充実、国際的には貿易黒字の還元(というか国際経済へのつけの支払い)、世界平和維持への貢献等を強く求められる平成の時代を迎えた。そのような点からは、やむをえなかった面もあるが、今一歩突っ込み不足の予算と思われる。赤字国債の大幅減額によって国債依存体質は改善されたといっても、国債残高は162兆円、GNPに対し42%の割合であり、この巨大な負債はこれからも例年の予算を圧迫し続けることになろう。また表面に出ていない社会保障基金積立の繰り延べによる債務については、殆ど見るべき改善がなされておらず、実体上の国の債務は表面以上に大きなものがある。まして、厚生年金支給開始年令の引き上げ、料率の引上げを不可避としている年金会計の将来については、更に徹底した検討が必要と思われる。今回、大幅な税制改正が実施されるとはいえ、国と地方との財源配分については、基本的な変更はなく、相変わらず国の交付税と補助金という中央支配の体制にはメスが入れられていない。大都市の過密化、なかんずく首都東京の機能麻痺も予想される今日、道州制や首都移転等の地方政治の在り方の根本について、見直しを行うことは21世紀の日本の全体的発展にとって重要な課題であり、財政面でも抜本的な取組を期待したい。最後にODAについては、予算面での手当ては大幅に充実されたが、実施体制の充実と必要な人材の確保をいかに行うか、またアジアの科学、技術センターとしてアジア諸国からの研究者や留学生の受け入れをどうするか等に関しては、不充分と言わざるを得ないであろう。ODAの量的増大に満足することなく質的な改善に取り組まなければ、その効果は小さく国際的な評価も意図したものを下回るものとなろう。

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