1989年01月01日

ポートフォリオリスクとアセットアロケーション(為替分析)

石井 吉文

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■見出し

1.はじめに
2.(伝統的な)アセットアロケーション
3.アセットアロケーションとオプションプレミアム

■はじめに

投資リスクのヘッジ手段として、先物、オプション市場が存在する。ところで、ダウンサイドリスクを抑え、アップサイドの収益を得ようとする方法としては、オプションが最も適切である。しかし、それよりはむしろ、先物によってオプションのベイオフダイアグラムの形状をつくるポートフォリオインシュアランスの方がより効果的であるとされる。というのは、一つに取引のコストとなるオプションプレミアムが高いためである。ところで、そのプレミアムはボラティリティーの大きさによって影響を受ける。また、このボラティリティーは複数のリスク資産の組み合わせによって(分散効果により)単なる加重平均の値よりも小さくなることが知られている。投資家にとって保有する金融資産は単に一つだけでなく、株式、債券、外国証券といったように複数のものが存在する。よって、投資家にとってのリスクヘッジの目的は単に個別資産におけるダウンサイドリスクのへッジではなく、それらの組み合わせであるポートフォリオ全体のダウンサイドのリスクを回避することであろう。そして、その手段としてオプションを考える場合、そのプレミアムの決定要素であるポートフォリオのボラティリティーはそれぞれの加重平均の値を下回る。オプションのプレミアムはボラティリティーが大きいほど高く、ボラティリティーが小さいほど安いわけであるから、結局、複数の資産によるポートフォリオを考える場合、それら別個に与えられるオプションプレミアムの加重平均と比較して、このポートフォリオ全体のボラティリティーより得られるオプションプレミアムは小さくなることがわかる。

ところで、オプション取引を行なおうとする場合、買い手にとっては売り手の存庄が必要である。よって、このようなマルチアセット型のオプションを考えたとしても、現実には、はたしてその取引の相手がいるかどうかといった問題を残す。

しかしながら、こういったマルチアセット型のオプション契約を現実に活用しないまでもオプションプレミアムがリスクの期待値であることからすれば、ここで計算されるマルチアセットオプションのプレミアムは当然覚悟しなければならないポートフォリオリスクの値と評価され、ポートフォリオ管理をするうえで重要なひとつの指標となり得る。

一方、ポートフォリオの収益=リスク管理については伝統的に期待収益率と標準偏差の関係から最適な組み合わせを考えようとするアプローチがとられてきた。しかし、ここで問題となるのは、ここで扱われるリスクは単に標準偏差であり、投資家にとって覚悟すべきリスクの値(リスクの期待値)ではないということである。たとえば、外国証券投資を行なおうとする場合、その最も大きな動機は内外金利差から得られる投資の有利性である。当然、ここには常に為替リスクが伴う。そこで、外国証券投資を行う場合、最適な通貨配分は一つにこの内外金利差によって表される期待収益率と標準偏差で表されるリスクの関係から、最適解を得ることができるとされてきた。しかし、ここで問題となるのは、内外金利差と標準偏差とは単純には比較が行い得ないということである。というのはリターンは確率的な平均収益率(期待収益率)であるのに対し、リスクを表す標準偏差は平均的な価格変動のブレを表すものであり、確率的な平均リスク(期待リスク)を表すものではないからである。もちろん、リスクを標準偏差とおく考え方は現代のポートフォリオ理論の基礎をなすものであり、CAPMをはじめ、そこから種々理論展開がなされてきた。しかしながら、既に述べたとおり、ポートフォリオの最適資金配分を考えようとする場合、単に各々の期待収益率と標準偏差で表されるリスクとの関係では単純な比較が行い難いことからするなら、外国証券投資を行う場合むしろ内外金利差為替変動リスクの期待値の関係で管理(分析)がなされるべきであると考えられる。

よって、このレポートでは投資(ポートフォリオ管理)を行う場合、必要となるリスクのプレミアム(覚悟しなければならないリスクの値)はどの程度であるのか、および期待収益率とリスクの期待値でみた場合、最適なポートフォリオの配分はどう決めるべきなのかについて、外貨ポートフォリオを例に考えていくこととした。

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